訳者解説:山形浩生

訳者解説 -新教養主義宣言リターンズ- (木星叢書)
これはちょっと変わった本。いつもの山形浩生だけど、翻訳ではないし、時事に絡めた教養話ではない(そういった面もあるけど)。これは彼が翻訳してきた本の要素をまとめてコメントをつけたような本。彼はいつも長い後書きとも補章とも言える様な文章を付けるけど、ついにはそれがまとまって一冊の本になってしまった、と言えます。確かに翻訳される本は情報がぎっしり詰ったページたっぷりですので、こういった本で「次何読もう?」と道先案内してくれるのはありがたいですね。
ただ、そんな事は全体としては小さいです。僕にとっては。
山形浩生が翻訳する本、特に経済、環境などの分野の物はハッキリと「事実を正直に捉え、意図を割り込ませずに判断しよう。その結果新しい結論を見つけられるだろう。」と言うメッセージが詰ったものが多いと思うのです。ロンボルグもレッシグも。
これはきっと彼の生き方で身に着けたメッセージを、翻訳と言う形を通して伝えてきているんじゃないのかな?と思います。
確かに日々生きていると、その場その場の感情や、これまでに積み重ねてきた物だけを大事にして、本当にすべき事を見なかったり、気付かなかったりする人に沢山出会います。
ある意味、人間の限界を見せられているような気分になりますが、山形浩生はこれに我慢がならないんじゃないかな?と思わせます。
これは決して彼が冷酷な人間と言うわけではなく、本当に大事な事の為なら、一時の感情や過去にとらわれることなく、真実を見つけて行動すべき、と言うことなんだと理解しています。(ただ、それが他者から理解されないせいで、結局喜んでもらえない、なんて事もありがちですが)
翻訳解説としても面白く、有用ですし、1冊では見えにくい訳者の考え・理念に触れられる、と言う変わった本だと思います。
【お勧め】★★★☆☆(3.5点これから買う人も、読んだ人にも良いと思います)