危機の政治学:佐々淳行

ハンガリー事件から、湾岸戦争、ソ連邦崩壊まで 危機の政治学 (文春文庫)つい十年ほど前、共産主義自由主義の世界を二つに分けた戦いが終わり、新しい宗教、民族の戦いが始まり掛けては居たけれど、まだその形が見えなかった頃、過去を振り返り未来に向けた提言として書かれた本だと思います。この本の中に、学生時代と昭和三十五年に書かれた2本の論文が収録されているのですが、何十年も経った今でも決して色褪せた結論となっていない所が素晴らしいと思いました。「平和論における認識と価値判断」では事実と主観を混ぜてならないと言う事を、「私はブタペストの警官になりたくはない」では単純な感情論で警察官の職務を見誤ってはならないと言う事を、それぞれ筋道立てた論理に沿って語っています。この本の中で佐々淳行氏が強く非難している事に中に「理想を追い求めるが為に現実を見ようとしない姿勢」があります。これは最近のプロ市民やらそう言った人達の姿勢に当てはまるように思います。理想は理想として素晴らしいかも知れない、しかし理想とは勝ち取るべきものであって、その為には「現実をどのように変えていけるのか、誰が何を行い、どのように変わるのか?」と言った現実的な方法論が必ず必要なのだと(逆に言えば、それが無い運動は「お題目を唱えるだけの宗教」と変わらないのだと)、思いました。(文庫での新刊の為)書かれた時代がやや古く、章毎の話のつながりが弱い為、ちょっと読み辛いかも知れませんが、当たり前に事に気づけると言う意味で、お勧めです。
【お勧め】★★★★☆(「私はブタペストの…」は良かった)