飛ぶ男、噛む女:椎名誠

飛ぶ男、噛む女 (新潮文庫)「飛ぶ男、噛む女」は私小説的な体裁を取っていますが、実際には日常の先にある少し怖い空気と男女の機微を「裏椎名誠流」に纏めた六編の短編小説集です。椎名誠は元々、あんまり性に関する話題は出してこないのですが、この本では結構自然に出てきます。ただその端々に狂気の発露としての欲望みたいな物が見える為、なんだかその行為は偽物と言うか、モノクロの写真のようなリアルさに欠ける気がします。だからと言って、この本の面白さがスポイルされている訳ではないのが、素晴らしい所だと思いますが。この本の主人公は全て同一人物、と言う設定ではないのですが、全てのストーリーで常に鬱屈していて、自分の気持ちが落ち込んでいる時に読むと厳しい気がします。逆に言えば、それくらい読み手に影響を与える本だと言う事です。
【お勧め】★★★☆☆(久しぶりに小説を満喫できました)