ねじまき鳥クロニクル1部〜3部:村上春樹

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)村上春樹は実質、これが始めて読む本なので、どのような読書スタイルが正しいのか判らないのですけど、感想から言えば勿論、面白かった。だけど、酷くねじくれてて何も正しい事を言わないし、伝えようとしない文章に見えるなぁ、なんて感じもします。それは僕の方の問題かも知れませんが。出来の悪い注連縄みたいに、ストーリーがポロポロとしていると思うし、構成の点で言ってもすごいと思わせる感じでは無い気がします。
だけど、それが欠点に見えない、寧ろ「そうでなくてはならなかった」と思わせるのは、ストーリーーとか構成とかの向こうに見える、「これを書きたかった」と言う作者の怨念みたいな意志のせいだと思います。全編を通じて、運命に流されるように決断をしなかったオカダですが、読んでいるとどうしても彼には真っ直ぐと道が見えていたとしか思えない気持ちになります。これはきっと作者の気持ちが行間から出ているせいじゃないでしょうか。必要に応じてシーンの直前に作られたような登場人物も、オチの弱さも、全てはこの作品を通して作者が描きたかった「何かの感情」の発露なんだと思いました。だからそういう意味で言えば、この本は小説ではなくて長いコラムだとか学術論文(どちらも目的を伝える手段の一つ)に近いと感じました。
作者が描きたかった何かが僕に伝わったか、よく判りませんし実感もありませんけど、その熱量に少しは触れられたような気がします。
この本の竜骨は愛なのかも知れないですけど、その船が乗せているものは、もっともっと救い様の無い沢山の事…いくらの文字を使っても語りきれない事、なんだと思いました。
【お勧め】★★★☆☆(本当は3.5点。最初はタルいね…)