眠る盃:向田邦子

眠る盃 (講談社文庫)向田邦子さんご本人の魅力について、その悪戯っ子みたいな茶目っ気があると思います。文章を重ねてきた知性と、少女のように何でも可笑しがる親しみやすい性格。「眠る盃」は、向田邦子さんのそう言った側面が良く現れている本だと思いました。これは様々な媒体に発表されたエッセイを纏めた本なので、一冊を通したテーマみたいな物はないのですが、それだけに文章自体の向こうから向田邦子さんの心根のような物が見えてくると思います。
僕が気に入ったのは「負けいくさ」と「娘の詫び状」です。「負けいくさ」は、自分で色々と即販展示会を前に財布を守る為の勇ましい講釈を垂れつつも、どうしても素敵な品々に心奪われ、財布の紐もゆるんでしまう、と言う話です。買い物を前にした誰にでもある葛藤が、とても良く伝わってくるだけに面白悲しさが一層強く感じられると思います。軍歌を捩った唄もくすり、とさせます。
これくらい感受性豊かに毎日を過ごして行きたいな、と憧れを持って読み終えました。
【お勧め】★★★☆☆(少し六つのひきだしと被ってる?)