ベルリン飛行指令:佐々木譲

ベルリン飛行指令 (ホームミステリーコミックス)太平洋戦争の開戦直前、日本を取り囲む状況が緊張の一途を進んでいた頃、二機の零戦がベルリンを目指し、空へ飛び立った…。
ノンフィクションの様に書かれたフィクションだとは思いますが、その辺はこの本の面白さに関係ないです。これは空を失いつつある騎士あるいは侍が、その翼に自らの居場所と魂を乗せて、遠くへ飛び立つと言う話です。何かが輝く瞬間と言うのは、それが「失われつつある瞬間」だ、と言う言い方が出来るかもしれません。歴史に名を残す名機「零戦」はその稀有な瞬間に、奇跡的に生まれ出でる事が出来た飛行機*1だと思います。
戦争は良くない、殺し合いは罪悪である、そんなお題目は誰だって唱えられるし、勿論大事な事だとは思います。だけどそれが許されない、後戻りの出来ない事だけに、一部の時代錯誤な連中はそこに価値を、ロマンチシズムを感じてしまうのです。
この本は冒険の話であり、そして「信念」の話でもあります。ある男が命を掛けて空を飛び、またある男は祖国解放に全てを捧げ、そしてある男は自らの職務に全力を尽くす。それは全て「信念」と呼ばれる馬鹿げているけれども、決して軽く見ることなど出来ない大切な事柄の為なのです。
【お勧め】★★★★☆(空のシーンだけはちょっと残念かな…)

*1:僕自身は総合的に見れば零戦は文句の無い名機か?と言われると微妙だとは思います。装甲とかエンジンとかね…。