NHKにようこそ!:滝本竜彦

NHKにようこそ!引きこもり男とそうでない女の子、だけど二人とも救いが無い所は一致している、そんな話です。文体は軽妙でプロットも良く出来てて、読み手の気持ち良い所をツツいてくれる、そんな訳でとても面白い話ではありました。同時に、幾つか考えさせられてしまう事もありました。登場人物に共通するのは、自信の無さを何かで隠している事。自信が持てない、誰かよりも自分が劣っている、登場人物はそうやって自分を貶めて行きます。だけど、僕は「それは誰より劣っているの?本当に世界の誰よりも劣っているの?」と思うのです。それに、劣っていては行けないの?何故、他人に笑われたら生きて行けないの?とも。工場のように同様の製品が同じラインで製造されている社会では、ラインよりも遠いところに目を向けるのは、とても難しい事だと思います。だけど、それは決して存在しないのではなく、目が届かないだけなのです。自分は確かにラインという狭い範囲では規格外かも知れない、だけどそれはラインという狭い、本当にちっぽけな世界の中だけの話なんです。絶望するのは世界の全てを見てからでも遅くは無いのです。
この本は、ひきこもりの話ではありますが、とても救い様のある話です。作中、登場人物たちはずっと現状を打破する為にもがいています。岬ちゃんの方法は決して正しくは無いですが、その「普通の世界」への渇望は、強く強く僕の心を打ちますし、主人公の自らを賭けての救いはある種の真実であるとも思います(同時に、逃げかもしれない、とも思いますが)。
人は誰かの為に生きるべきなのだ、と思いを強くしました。
【お勧め】★★★★☆(この本の空気に拒絶感が無いなら読むべき)