困ります、ファインマンさん:R.P.ファインマン(訳:大貫昌子)

困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)チャレンジャー号の事故を覚えていますか?打ち上げ直後のスペースシャトルが、その上昇途中で爆発四散したという悲惨な事故です。その原因は結局は何処にでもある「上司の思惑と部下の思惑の違いから、重要な事項が充分に伝達されなかった」と言う物でした。詰まるところ、上司は自分の立場でしか物を考える事が出来ずに、部下が重要だと思っていることを汲み取れなかった(これは伝えられない部下にも責任は有るのかも知れませんが)と言う事です。この「相手の立場になって物を考えられない」と言う人間の特徴は、僕が思うに人間にとって最も重大な欠陥の一つです。
パレスチナイスラエルの終わらない紛争はどちらにも正しい言い分はあるし(世界は正義が一方にしかない、なんて簡単なものじゃないハズ)、宗教戦争だってあれは「唯一のものであって他者の存在を認めない」宗教の性質が、自らと立場の違う他者への関心を断ち切ってしまうからだと思います*1。恐らく宗教に限って言えば、そう言う他者を認めない画一的な判断ができる所は、殆どの人間(物事を深く考えたくない種類の人たちです)にとって、とても救いのあるものに見えるのでしょう。昔、「風使い」と言う漫画で、主人公が「知り合い以外の人間が何人死のうが、俺の知った事ではない(確かこんなニュアンス)」と言う旨の事を言っていました。これは人間については真実であり、そして欠点をよく言い表しています。
ファインマンさんが見つけたこの簡単な事実は、沢山の人が心の奥底でわかっていながら隠し続け、ついには事故へと発展しました。この事は少しでも他者と仕事をした事が有る人ならば、思い当たる事が有るでしょう。仕事だけではなく、家族や恋人間であっても思い当たるかも知れません。
人間の思いやりには限度が有ります。無限の思いやりがある人間が居たら、恐らく悲しみに溢れ人生を進める事すら出来ないでしょうから、それは仕方ない事なのかも知れません。しかし、だからと言って欠点が消えるわけでは無いのです。それを忘れ、見えない振りをしてはなりません。自らの欠点を見つめ常に自省し、より望ましい判断を出来るよう、気をつける事は幾多の失敗を見てきた僕らの義務だと思うのです。
話は関係ない方向に散らかりましたが、それらを除いても科学の楽しさや調査に関する冒険談等、いつものファインマンの楽しいエッセイ的放談となっていて面白いです。是非、手にとって見てください。
【お勧め】★★★★☆(他のシリーズも揃えたい…)

*1:最近は宗教間の対話も増えてきて、今までとは違うようですけど。