ハル:瀬名秀明

ハル (文春文庫)久しぶりの瀬名秀明。ロボットを取り巻く近未来的な視点からの中篇小説を纏めた物です。未来のロボットの御伽噺を挟みながら、同じ未来が複数の視点で語られています。それぞれテーマは違いますが、ロボット研究の永遠のテーマとしての「人間の魂」について語られていて、やっぱり人間にとってロボットと言うのは鏡のような存在になっていくのだな、と思いました。充分な取材に基づいているだけあって、近未来のSFでありがちな違和感を感じる事はなく(とはいえ、既に現実が小説の内容を上回っている部分もあるのですけど)、すんなりと読めます。
僕の好きな話は「亜希への扉」でしょうか。ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」のオマージュとして書かれた(説明は無いけど間違いない)本編は、夏への扉でのテーマである時間跳躍(タイムマシン)を、ロボットの「成長しない事で時を越える」特性として表現しています。ちょっとした年の差の恋物語であるところもハインラインへの敬意なんでしょうね。こういう試みは面白いです。
僕はロボットに魂だとか、人間と対等なパートナーになる必要だとかは感じていませんけど、人間の科学技術がそれを可能にしたとき、どんな選択をするのかには興味があります。
【お勧め】★★★☆☆(3.5点、ロボット好きな人ならばにやりとします)