かえっていく場所:椎名誠

かえっていく場所椎名誠私小説群の中でも家族を扱った「岳物語」の流れを汲む本です。家族も独立し、それぞれの生活を確立して行く中で、何とはなしに取り残されているような、子供の背中を見ているような感覚なのでしょうか。僕はまだ家族がどうとか、子供が独立とかは夢の先のような話ですが、いつか彼と同じ視線になるのかも知れないと思うと、この本全体を通して感じる暖かさと切なさと不安が混じったような空気も納得が出来るのです。
老いと言うのは失い続ける事なのかも知れません。必要不必要に関わらず、暴力的な時間によって次々と何かを削り取って行く流れ。そしてその中で信じられる価値を守って積み重ねて行く事。僕にはまだ理解し切れないんでしょうね。
椎名誠にとって奥さんと言うのは大きな支えで有ったと言う事が、この本を通じて良くわかります。椎名誠は昔から奥さんへの愛を割と隠さずに表現(あまり直接的ではないですけど)してきたのですが、この本を読むとそう言った精神的な面だけではなく、顔を合わせて共に生活を支えて行く仲間としての奥さんにも大きな情愛を持っている事が良くわかるのです。
【お勧め】★★★☆☆(味わい深い)