失敗の本質 日本軍の組織論的研究:戸部良一, 寺本義也, 鎌田伸一, 杉之尾孝生, 村井友秀, 野中郁次郎

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
すみません、舐めてました。かなり有名な本なので喜び勇んで購入し、読み始めた最初の感想は、「他の本でさんざん取り上げられた戦闘を、こねくり回してるだけだなあ」でした。
本の構成は2部式で、1部は太平洋戦争中の有名な負け戦を簡単におさらいして、それに解説を加えたパートなんですが、これが長い。題材がノモンハン/ミッドウェー/ガナルカナル/インパール/レイテ/沖縄戦ですから、戦史好きなら耳タコと言わざるを得ないんですね。おさらいですから取り上げ方も不満足ですし、あまり組織論には触れませんし。いまさら栗田ターンとか、牟田口とか言われても、です。

で、本番は2部の方。戦争・戦闘が組織によって行われるなら、そこに組織としての影響が大きく出るはずだと仮定して、各将官の判断を『本人の資質以外の観点』から語ります。それは、彼らをその判断が出来る立場に置く事になった、『育成・人事制度の目的と歴史』でもあります。また、彼らの判断を受け入れるに至った『組織の形、組織内の力関係』でもあります。

この本は二つの見方があるかと思います。一つは「日本が戦争(と言うか戦略)に負けた理屈に、新しい視点をくれる」こと、もう一つは「我々日本人が日常の組織内で起こしてしまいがちな、日本ローカルの組織的問題点を明らかにしてくれる」こと。
前者は好き物が読み取ればよい部分ですが、後者はかなりを重みを持って受け取らざるを得ませんでした。だって、自分の胸に聞いてみても覚えのある事ばかりでしたから。

戦争は遥か歴史に成りつつありますが、僕らの人間性はさほどの進展も無く、戦争中と同じ精神構造を保ち続けています。それは戦争がまた来る!みたいな陳腐な脅しではなく、戦時と同じ失敗を大なり小なり繰り返す、繰り返している、と言う事です。例えば、熱狂的な太陽光発電への傾倒は、現実が見えた上での判断でしょうか?理念が現実を超えていませんか?そこに自省の観点はあるでしょうか?

会社や組織で意思決定を行う人は必読と言えるかと。あと、この本は問題点は挙がりますが、はっきりとした解法は書いてませんので、どうするのか?は自分で探す必要があります。

【お勧め】★★★★☆(いい本でした)