喪失の国、日本:M・K・シャルマ(山田和:訳)

インドの若きエリート会社員が市場調査として日本に滞在した滞在記です。様々な印日間の慣習の違いについて深い洞察力で指摘していて、単なる面白おかしい滞在記に留まっていない所が素晴らしいです。日本に暮らす日本人と言うのは基本的に他の民族や異文化…

風まかせ写真館:椎名誠

椎名誠のライフワークになりつつある写真について、まとめた本です。彼の写真と言うのは彼のエッセイから毒と悲しみを抜いたような感じになっていて、つまりは温かみだとか今、生きている郷愁のような物を強く感じさせます。椎名誠も本の中で自分の作品を「…

流星ワゴン:重松清

「流星ワゴン」はありきたりな不幸に見舞われ、家庭崩壊を引き起こし、絶望と後悔のどん底にいる男が主人公です。彼が夜、家に帰ることも出来ずに駅のロータリーで佇んでいると、一台のワゴンが彼を迎えに来ます。もう死んだハズの親子が運転するワゴン。彼…

困ります、ファインマンさん:R.P.ファインマン(訳:大貫昌子)

チャレンジャー号の事故を覚えていますか?打ち上げ直後のスペースシャトルが、その上昇途中で爆発四散したという悲惨な事故です。その原因は結局は何処にでもある「上司の思惑と部下の思惑の違いから、重要な事項が充分に伝達されなかった」と言う物でした…

ファインマンさん最後の冒険:ラルフ・レイトン(訳:大貫昌子)

ファインマンさんの名前が出てくるし、本人も文中に沢山出てきますけど、これは本人の話ではなくて、ラルフ・レイトンさんの本です。この本のジャンルはエッセイ?ドキュメンタリー?その中間みたいな感じでしょうか。タンヌ・トゥーバと言うソビエト奥地の…

ご冗談でしょう、ファインマンさん(上)(下):R.P.ファインマン(訳:大貫昌子)

ずーっと読みたかった一冊(上下巻)。世間一般で物理だ工学だとかの「理系」の連中は、イマイチ暗いとか話ベタとか思われがちですが、だからと言って感動や喜びに疎い訳ではないのです。文系は興味の対象が芸術だったり文学だったり、人間に関わる事象が殆ど…

世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド(上)(下):村上春樹

海辺のカフカと同じように2つの話が重なるように進んで行く手法が好きなんでしょうか?一緒に記述される事の利点が良くわかりませんが。僕は面白いのですけど、イマイチ主題を読み取る事が出来ませんでした。主人公の彼が自らの世界を獲得するまでの込み入っ…

ゲイルズバーグの春を愛す:ジャック・フィニィ

SFとお伽話は紙一重みたいな所があるので、こういうロマンチックなSFというのは字面から感じる違和感ほどは受け入れにくいものではなくて、どちらかというと優しいワクワク感を感じられる分、得難いものだと思います。この短編集から出てくる望郷、もしくは…

サマー/タイム/トラベラー(2):新城カズマ

うーん。つまらなくは無かったけど、びっくりする程面白かったかというとちょっと違う気がします。これは僕の好みの問題でも有るのですけど、話のプロットがキッチリと繋がっているのが好きなんですね。伏線とかが綺麗に解決されたりとか。だけどこの本では…

サマー/タイム/トラベラー(1):新城カズマ

新城カズマと言えば新城十馬で「蓬莱学園の初恋!」な訳です。個人的な話をさせて頂ければ(っていつも個人的な話なんですけど)、アレは面白かった。適度なケレン味と青春の衝動と学園のセンス・オブ・ワンダーが有った。で、今回のはそれに比べると些か判り…

風の道 雲の旅:椎名誠

椎名誠のいつも通りの日々。だけど彼にとってのいつも通りは、僕にとっての非日常であって、どうしたって憧れてしまう素敵な風景と優しい人々との交流が本の体裁をとっているのです。旅の写真をメインに、幾つかのエッセイで構成されている本書は、元は文庫…

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ:滝本竜彦

「幸せな時は不思議な力に守られているとも気付かずに」なんて言葉もありますが、実際に後から考えてみれば、幸せはホンの一瞬にしか感じられず、結局最後には何も残らないし、誰も僕の幸せなんか守ってくれないのだ、なんて感じてしまう時もあると思うので…

NHKにようこそ!:滝本竜彦

引きこもり男とそうでない女の子、だけど二人とも救いが無い所は一致している、そんな話です。文体は軽妙でプロットも良く出来てて、読み手の気持ち良い所をツツいてくれる、そんな訳でとても面白い話ではありました。同時に、幾つか考えさせられてしまう事…

ベルリン飛行指令:佐々木譲

太平洋戦争の開戦直前、日本を取り囲む状況が緊張の一途を進んでいた頃、二機の零戦がベルリンを目指し、空へ飛び立った…。 ノンフィクションの様に書かれたフィクションだとは思いますが、その辺はこの本の面白さに関係ないです。これは空を失いつつある騎…

恐るべき旅路:松浦晋也

技術実験機であり火星探査機であったPLANET-Bこと「のぞみ」の開発にいたる背景から、その出発、苦難の旅と挫折に至るまでを原因まで詳細に記したドキュメンタリー。僕は余り日記とかに書きませんけど、宇宙の話が好きでして、「のぞみ」についてもニュース…

白夜行:東野圭吾

二人の男女と、それをめぐる救い様の無い、酷く暗くて悲しい因果の話。これは謎はありますけど、ミステリーなんでしょうか?それとも二人の男女の憂鬱なラブストーリー?亮司は作中で日の当たる場所を歩きたいと語りました。だけど彼の願いは叶えられません…

海辺のカフカ(上)(下):村上春樹

村上春樹と言うのは、大人向けお伽話を専門にしている、とゆー理解で良いのでしょうか?面白いのだけど、現実感と言う意味では破綻している話でした。「ねじまき鳥」とこれしか僕は読んでいないのですが、肌触りの良く似た作品だと思います。見えない何かと…

女の人差し指:向田邦子

向田邦子さんが最後に書かれた作品がこの本に収録されています。「クラシック」と題されたその作品は、旅行先で聞いたクラシック音楽、父親との思い出、現在の身近な風景、それらの話題を流れるように触れている、非常に向田邦子さんらしいエッセイでした。…

眠る盃:向田邦子

向田邦子さんご本人の魅力について、その悪戯っ子みたいな茶目っ気があると思います。文章を重ねてきた知性と、少女のように何でも可笑しがる親しみやすい性格。「眠る盃」は、向田邦子さんのそう言った側面が良く現れている本だと思いました。これは様々な…

ねじまき鳥クロニクル1部〜3部:村上春樹

村上春樹は実質、これが始めて読む本なので、どのような読書スタイルが正しいのか判らないのですけど、感想から言えば勿論、面白かった。だけど、酷くねじくれてて何も正しい事を言わないし、伝えようとしない文章に見えるなぁ、なんて感じもします。それは…

空を駆けるジェーン:アーシュラ・K・グウィン

翼の生えた猫の冒険劇。翻訳は村上春樹です。所謂、大人向け絵本の類になるのかな?ちょっとこれから何かを読み取れ、と言うのは大人には難しいような気がしますけど…。「猫」と「翼」は「自由」で繋がりますよね。と、言うことはこれは自由に対する物語なの…

ブギーポップ・バウンディング ロスト・メビウス:上遠野浩平

最近、マンネリ化が激しいブギーポップの話ですけど、ちょっとこれは手癖感が強いです。物語が断片的なのは本当の世界へのリアリズムなのかも知れないですけど、それが物語をつまらなくしていたら本末転倒だと思います。織機さんは相変わらず病的なぐらい健…

たんぽぽ娘 海外ロマンチックSF傑作選2

「SFは現代のお伽話だ」という言い方があります(多分)。お伽噺に出てくる魔法もSFの超技術も、ストーリーを破綻なくドライブする道具であることは変わらない、とかそんな感じの話ですね。なので、お伽話に恋愛が良く似合うように、SFにも恋愛は良く似合うの…

スカイ・クロラ:森 博嗣

自分と世界の関係が希薄だと感じるのは、誰だって若い頃にあって(いつまでたってもそうだと思う人も居るだろうけど)、それは世の中の大きさを把握できる割には、自分の力が世の中に影響を与えていると感じられなくなった、やや不幸な時代のせいなのだろうと…

となり町戦争:三崎亜記

日常の生活に行政の施策の一環として、戦争が始まった話。確かにそれっぽい変化は会ったけど、僕はそれにリアルを感じられず…という感じです。昔、パトレイバー2(劇場版)の中で「戦争はいつだってリアルなんかじゃない」と言う意味の事を登場人物が語ってい…

夜中の薔薇:向田邦子

向田さんがお亡くなりになってから、生前に書いていた幾つかのエッセイを集めて発表された本、かな?ちょっとした旅行記みたいなものが入っていて、それが読み応えがあって面白かったです。あと、料理について語っている話も。「ホント、大した事無いのよ」…

リアル226(藤本美貴写真集):藤本美貴

モーニング娘。6期メンバーのミキティこと藤本美貴さんの写真集。僕はもともとあんまり興味のある人では無かったのだけど、娘。に入ってから段々と興味を持つようになって、今回めでたくご購入。いやー可愛いわー。おでこ出してる写真が好きだなー。アイドル…

さまよう刃:東野圭吾

「愛する娘を殺された父親が犯人に復讐する」。ストーリーは決して難しいものでは有りませんし、これはミステリの範疇には入らない物語だと思っています。主題は余りに重く、余りに救いが有りませんし、さしたるどんでん返しもありません。だけどこの構成は…

飛ぶ男、噛む女:椎名誠

「飛ぶ男、噛む女」は私小説的な体裁を取っていますが、実際には日常の先にある少し怖い空気と男女の機微を「裏椎名誠流」に纏めた六編の短編小説集です。椎名誠は元々、あんまり性に関する話題は出してこないのですが、この本では結構自然に出てきます。た…

無名仮名人名簿:向田邦子

感受性や観察眼と言うのは、日々のルーチンワークの中に「どれだけ楽しい事を発見できるか?」と言う意味で人生をどれだけ楽しめるか、決めてくれると思います。そんな意味で向田邦子さんの人生は凄く楽しそうだなぁ、と思いました。この本はどこにでも居る…